ストーリー
「例えばラッコって大好きな貝を食べようとお腹に乗せて叩きつけるけれど、あれって失敗しないのかなって」
バンド「ネメシス」のボーカルの藤木瑛司は、恋人の富永秀樹の家を訪れている。
「失敗したら内蔵破裂しそうだと思わないか?」
「命にかかわるな」
「そう命がけ。失敗したら死んじゃうかもね。でも叩かずにはいられないのがラッコ。そして失敗するやつは広い地球にはいると思う」
「……何か重大な失敗をしたの?」
自分が何か失敗して謝ろうとしていることも察して水を向けてくれた。そう捉えた瑛司は元カノである浅井塔子と寝てしまったことを秀樹に告白した。
さざなみが引くように、秀樹は急速に手が届かない場所へと去ってしまった。
新聞記者である浅井塔子と再び関係をもったのは、ちょっとしたことだった。
野外イベント会場に塔子を見つけた。控えのテントで仕事だと言い張っていたが、その日のイベントにバンド個別取材はなかった。
打ち上げにも出ずにホテルの部屋へと戻った。塔子と寝てしまった後、秀樹のことを思い出した。黙って同時に付き合うのはさすがにルール違反だった。瑛司は今、秀樹と付き合っていることを告白する。最初にあっけにとられていた塔子は冗談かどうか何度も確かめて、最後には瑛司を罵って出て行った。
ふたりの恋人に去られた瑛司は、恋愛したい気持ちと面倒さに辟易する感情の間で揺れながら数日、作詞に没頭していた。
「遺伝的背景および環境要因の寄与に着目したカモノハシとカワウソの行動生態学上の比較」を研究テーマにする大学院生、秋野侑李はアセクシュアルで、瑛司の想いはまったく理解できない。人を性的に愛することはないが、他人周りに“興味”という形での情は深い侑李にも、同情も相手にもされない日々。
そんなある日、塔子から連絡が来た。家に入れる気になれず、山下公園で瑛司は塔子の話を聞く事になった。
そこで、喪服を着ていた村山蒼佑と出会う・・・
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